2006/06/29 果物を含む食生活は大腸ガンを予防する
男性の自衛隊員1,341人を対象に大腸ガンと食事のパターンとの関係を解析した結果、果物、野菜、乳製品、デンプンを多く摂取し、アルコールの摂取量が少ない人は大腸ガンになりにくいことが九州大学と自衛隊病院との共同研究から分かった。
研究では1)果物、野菜、乳製品、デンプンを多く摂取し、アルコールの摂取量が少ない(DFSAパターン)、2)動物性食品を多く摂取しているパターン、3)日本型食生活の三つの食事パターンに分けて解析したところ、DFSAパターンの食事をしている人は大腸ガンの前駆体である腫瘍ができるリスクが38%少ないことが分かった。一方、他の二つの食事パターンではこうした傾向は認められなかった。
【文献】
Mizoue, T. et al.: Dietary Patterns and Colorectal Adenomas in Japanese Men - The Self-Defense Forces Health Study. Amer. J. Epidemiol. 2005 161: 338-345. (2005) [doi:10.1093/aje/kwi049]
2006/06/27 偏った食生活は喫煙と同じくらい健康に悪影響:オランダ
オランダの国立公衆衛生・環境保護研究所(RIVM)は、果物、野菜、魚をほとんど食べない食生活は喫煙と同じくらい健康に悪影響お及ぼすと発表した。
報告では、現在オランダでは、深刻な病気や死亡の原因となっている食習慣のうち、最大のものが果物、野菜、魚の摂取不足と指摘している。また、何年もの闘病生活を強いられるリスクまで考慮に入れると、不健康な食生活は喫煙と同じくらい健康に大きな害を及ぼすとしている。
オランダでは、約75%が十分に果物や野菜を摂取していない。そのため、不健康な食生活が糖尿病や心疾患、ガンを引き起こしているとしている。
報告書は下記のサイトで読める。
http://www.rivm.nl/bibliotheek/rapporten/270555009.pdf
2006/06/25 コエンザイムQ10:安全な上限量決定は困難
コエンザイムQ10について、内閣府食品安全委員会は「データ不足のため、食品として摂取する際の安全な上限量を決めることは困難」との評価書案をまとめた。ただし、健康食品の製造にあたっては、医薬品としての用量(1日当たり30μg)を超えないよう配慮する必要があるとしている。
コエンザイムQ10は動植物の体内で合成されている物質で、抗酸化作用があり、心不全治療では用量が決められているが、健康食品用としては基準がなかった。
コエンザイムQ10入りの食品を摂取した消費者が胃痛やおう吐を訴えたとの報告もあり、厚生労働省が食品安全委員会に食品としての健康影響評価を依頼した。
安全委員会は「健康被害との因果関係がはっきりせず、評価できなかった。医薬品としての用量を超えても、必ずしも健康被害が出るわけではない。消費者は、医薬品の用量を認識しつつ、摂取後に具合が悪くなることがあれば医療機関へ相談してほしい」としている。
食品安全委員会のコエンザイムQ10の審議結果は下記のサイト
http://www.fsc.go.jp/iken-bosyu/pc_coq10180622.pdf
食品安全委員会のコエンザイムQ10に関する意見募集は下記のサイト
http://www.fsc.go.jp/iken-bosyu/pc_coq10180622.html
2006/06/24 カンキツ果汁は骨を強くする
骨粗しょう症モデルのネズミの朝食にオレンジジュースとグレープフルーツジュースを与えたところ、骨が強くなったとアメリカ・テキサスA&M大学の研究グループが発表した。ジュースに含まれている抗酸化成分が骨をもろくするオキシダントの働きを抑制するためではないかとしている。
【文献】
Deyhim, F. et al.: Citrus juice modulates bone strength in male senescent rat model of osteoporosis. Nutrition 22: 559-563. (2006)
2006/06/23 DNAワクチンとは
遺伝子免疫とも呼ばれ、一種の遺伝子治療である。
今までのワクチンは、病気の原因であるウイルスを不活化あるいは弱毒化したものを体内に注入し、体内で自然に抗体を作らせ、免疫の働きを利用して感染を予防する。
DNAワクチンは、ウイルスの抗原になる部分の遺伝子を体内に導入し、体内で抗原を作らせ免疫を誘導する方法である。従来の方法はウイルス全体を接種する必要があったが、この方法によると特定のタンパク質のみが生成されるので、毒性を示す部分を取り除くことができる。
DNAワクチンは研究段階で、マウスでは効果的であるが、人ではまだテスト中である。
2006/06/22 アルツハイマー病予防の新DNAワクチン
アルツハイマー病の原因タンパク質・β-アミロイドが脳に蓄積するのを抑える新しいDNAワクチン(nonviral
Aβ DNA vaccine)を開発したと東京都神経科学総合研究所などの国際研究チームが発表した。
アルツハイマー病は、脳にβ-アミロイドと呼ばれるタンパク質が蓄積して起こる。β-アミロイドをつくるDNAを含んだワクチンを筋肉に注射するとβ-アミロイドが体内で作られるが、同時に、β-アミロイドに対する抗体もできる。この抗体がβ-アミロイドの蓄積を抑える。
そこで、研究チームは、開発したDNAワクチンをアルツハイマー病モデルマウスに投与してβ-アミロイドの蓄積を調べたところ、投与しなかったマウスに比べて3分の1~半分程度に減った。また、このワクチンは長期間投与しても、免疫に関する細胞の過剰な活性化や髄膜脳炎といった副作用がなく安全性が高いことから遺伝子を用いた治療薬としての可能性が期待されている。
【文献】
Okura, Y. et al.: Nonviral Aβ DNA vaccine therapy against Alzheimer's disease: Long-term effects and safety. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 103: 9619-9624. (2006) [doi: 10.1073/pnas.0600966103]
2006/06/20 女性の場合、睡眠不足が体重増と関連
睡眠不足は体重の増加につながるとアメリカ胸部学会国際会議(American Thoracic Society International Conference, in San Diego)で報告されたとCBSなどが伝えている(06/05/23)。
Nurses Health Studyに参加した女性6万8,183人を16年間追跡した結果、睡眠時間が5時間以下の女性は、7時間の女性に比べ、2.3ポンド以上(約1kg)体重が増加していた。また、睡眠時間が6時間の女性は、7時間睡眠の女性よりも1.5ポンド以上(約0.7kg)体重が重かった。
さらに、毎日7時間以上睡眠をとる女性は5時間しかとらない女性よりも食事量が多く、運動の習慣は、両グループの間にほとんど差がみられなかった。
以上の調査結果は、睡眠不足は体重の増加につながることを示唆しているが、その因果関係はまだ明らかではない。
男性については調査が行われていないので睡眠不足が体重増につながるかどうか明かではない。
2006/6/19 肝臓から脳に信号が伝わり肥満を抑制
肝臓と脂肪組織の情報のやりとりに関与する神経経路を同定したと東北大の研究グループが科学研究雑誌Scienceに発表した。
モデルマウスに対し遺伝子操作を行い、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)-γ2を肝臓に発現させると、脂肪の蓄積が著しく減少した。また、迷走神経を手術で切断して実験すると、脂肪肝にしても内臓脂肪は減らなかった。
以上のことから、脂肪肝になると神経を通して肝臓から脳に信号が伝わり、体のエネルギー消費を増やしたり、脂肪を減らしたりして、肥満が進むのを抑える調節機構が働くと研究者らは考えている。
【文献】
Uno, K. et al.: Neuronal Pathway from the Liver Modulates Energy Expenditure and Systemic Insulin Sensitivity. Science 312: 1656-1659. (2006) [doi 10.1126/science.1126010]
2006/06/16 ガン化を促進タンパク質が特定される
大腸ガンの進行や悪性化で中心的な役割を果たすタンパク質が特定されたと、金沢大などの国際共同研究チームが発表した。
CRD-BP(coding region determinant-binding protein)と呼ばれるタンパク質は、大腸ガンの細胞内で、ガン進行や悪性化につながるタンパク質を合成するリボ核酸(RNA)を安定化し、ガン化を促進することが分かった。
大腸ガン細胞の培養実験では、遺伝子操作によりCRD-BPの働きを阻害すると、ガン化を促進する伝達経路が衰え、ガン細胞の自殺率(アポトーシス)が上昇し、増殖率が大幅に抑えられた。
大腸ガンを促進する仕組みについては、これまで不明な部分が多かったが、大腸ガンの病巣から多く検出されるCRD-BPが、ガン化促進するタンパク質であることを解明した。
今後、発ガンとガン悪性化の伝達経路の解明や新たな治療、診断法の開発が期待される。
【文献】
Noubissi, F. K. et al.: CRD-BP mediates stabilization of βTrCP1 and c-myc mRNA in response to β-catenin signalling. Nature 441, 898-901 (2006) [doi: 10.1038/nature04839]
2006/06/15 ガンなどの闘病記:ネットで無料検索
図書館司書や医療従事者が選書した700冊の闘病記を無料で検索できる「闘病記ライブラリー」(国立情報学研究所)がスタートした。仮想本棚に闘病記がガン、脳、心、血液など12項目に大分類し、病名ごとに小分類されている。
著者、出版社、目次、概略や解説もあり、著者の性別や年齢、生死などの情報が記載されている。サブタイトルは「病気と闘う患者・家族・患者を支える人へ」である。
闘病記ライブラリーは、下記のサイトにある。
http://toubyoki.info/
2006/06/09 低カロリー食で老化を抑制できる
十分にタンパク質と微量成分が含まれていて低カロリー(1800kcal)な食事を続ければ老化が抑制できるとアメリカ・セントルイスのワシントン大学医学部の研究グループが科学研究雑誌に報告した。
低カロリー食を続けるとT3と呼ばれる甲状腺ホルモンと炎症性たんぱく質腫瘍壊死因子(TNF-α)のレベルが低下した。T3ホルモンは、体温、細胞代謝の制御と細胞にダメージを与えるフリーラジカルに関与していることから、T3ホルモンの減少は老化速度を遅くすると研究者らは述べている。
【文献】
Fontana, L. et al.: Effect of Long-term Calorie Restriction with Adequate Protein and Micronutrients on Thyroid Hormones. J. Clin. Endocrinol. Metab. Online May 23 (2006) [doi: 10.1210/jc.2006-0328]
2006/06/08 歩行能力は寿命と関係する
高齢者の歩行能力が、将来の健康状態および寿命まで予測する重要な指標となることがアメリカ・ピッツバーグ大学などの調査から分かった。400メートルを短時間で歩き切ることができる人は、長生きする確率が高く、心血管疾患および身体障害を来す確率が大幅に低かった。
健康な70~79歳の被験者3,075人(男性48%、女性52%)に対し歩行テストを行った結果、歩行速度上位25%のグループに比べ、最下位のグループでは死亡リスクが3倍高かったほか、心疾患、運動制限および障害を生じるリスクも高かった。
この結果から著者らは、歩行テストが、高齢者の死亡リスクや疾病リスクを予測する方法として有用であり、かつ、健康状態をテストする指標として役立つとしている。
【文献】
Newman, A. B. et al.: Association of Long-Distance Corridor Walk Performance With Mortality, Cardiovascular Disease, Mobility Limitation, and Disability. JAMA. 295: 2018-2026. (2006)
健康の維持には歩くことが大切であることを裏付けた研究である。特に、高齢者の場合、歩行能力の維持が大切であることをこの研究は示している。
2006/06/02 レモネードが腎臓結石の予防に役立つ可能性
アメリカ・ウィスコンシン大学の研究チームとデューク大学の研究チームがアメリカ泌尿器協会年会(アトランタ:06/5/24)でレモネード(レモンジュースを水で薄めた飲み物)を飲むと腎臓結石を予防できると報告した。
ウイスコンシン大学の研究チームは、120mlのレモンジュースを含む2.5Lの飲料か960mlのレモネードを40ヶ月飲んでもらったところ尿中のクエン酸塩が多くなり量も増えたと報告した。
デューク大の研究チームは、低クエン酸症の患者に120mlのレモンジュースを含む2Lの飲料を摂取してもらったところ12人中11人で尿中のクエン酸塩が増加したと報告した。
腎臓結石ができやすい人にはしばしばクエン酸カリウムが処方されるが、レモンにはクエン酸が含まれているので腎臓結石の予防に役立つと考えられている。
しかし両グループとも、レモネード療法が代替え治療になるかについては、さらに研究を続ける必要があるとしている。
2006/06/01 鳥インフルエンザ、ヒトからヒトへの感染を否定WHO
世界保健機関(WHO)は、インドネシアの一家7人が高病原性鳥インフルエンザに感染し、うち6人が死亡した事態について、ウイルスが人間から人間に感染した可能性があると5月23日に発表したが、その後の研究から人から人への感染は確認されていないと否定し、5月31日に見解を修正公表した。
当初、周囲に鳥インフルエンザに感染した動物がいないとされていたが、その後の調べで数羽の鶏を飼っており、最初の病状が現れる前に3羽が死んでいることが分かった。
以上の結果から鳥インフルエンザの警戒レベルは現状のままでよいとした。
5月31日発表の鳥インフルエンザに関するWHOの見解は下記のサイトで読める。
http://www.who.int/csr/don/2006_05_31/en/index.html
鳥インフルエンザがもし人に移ると大変なこと(世界中で多数の死者が出ると予測されている)になるが、今回は感染は確認されていないようだ。
2006/04/30 ちょっとした生活習慣の変化で寿命が延びる
イギリスのケンブリッジ大学が25,000人以上を対象に行った研究から、果物と野菜を5単位以上摂取すると誰でも3年間寿命が延び、禁煙すると4-5年、適度な運動で3年間など、合計すると10-11歳以上も若返るとBBCが伝えている。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/health/4941910.stm
2006/04/27 インターフェロンを作る酵素の発見
ウイルス感染を防ぐなどの働きのあるインターフェロン-αという物質が体内で作られるのに必要な酵素を理化学研究所のチームがマウスで見つけたと科学研究雑誌Natureに発表した。
インターフェロン-αは、ウイルスなどの異物が体内に入ると作られ、免疫力を高める作用があるため、生体の感染防ぐ働きがある。だが、免疫力を高めすぎると、副作用で関節リウマチなどの疾患が起きることが知られている。
そこで、マウスを用いてインターフェロン-αが作られる反応を検討した結果、インターフェロン-αを強く促す酵素(IκBキナーゼ-α(IKK-α))を見つけた。従って、この酵素をうまく調節できれば、免疫を高めてがんや感染症を治療できるばかりか、免疫を抑えてリュウマチなどを治療することも期待される。
【文献】
Hoshino, K. et al.: IB kinase- is critical for interferon- production induced by Toll-like receptors 7 and 9. Nature 440: 949-953. (2006) [doi:
10.1038/nature04641]
2006/04/25 前立腺ガンの進行を止めるには
前立腺ガンと診断された男性が、早期に、食事の内容とライフスタイルを変更したところ、1年で前立腺ガンの症状を示す値(PSA)が改善されたと報告された。
前立腺ガンと診断されたが、まだ、転移しておらず、手術、放射線治療、化学療法などを全く受けていない93人を対象に食事、ライフスタイルを変えるグループと、従来通りの生活を続けるグループ2つに分けた。また、食事、ライフスタイルを変更したグループの食事は、果物、野菜、大豆など豆類、全粒穀物、を中心としたものに換え、さらに、フィッシュオイル、ビタミンEとCを多く摂取するようにし、1日30分間、週6日間のウオーキング、ヨガをベースにしたストレス・マネージメント(ストレッチ、呼吸法、リラクセ-ションなど)を1日1時間行った。また、週に1時間開かれる「同じ仲間の会」に参加した。
1年後、血中の腫瘍マーカーであるPSA(前立腺ガン特異抗原)を測定した結果、食事内容とライフスタイルを変更したグループのPASは、1年前より平均4%下がり、前立腺ガンの進行が抑えられていた。しかも、食事、ライフスタイル
の変化の度合いが大きかった人ほど、PSA値の下がり方が大きかった。
一方、食事、ライフスタイルを変えなかったグループは、PAS値が1年前より6%アップしていた。
【文献】
Ornish D, et al.: Intensive lifestyle changes may affect the progression of prostate cancer. J. Urology. 174: 1065-1070. (2005)
2006/04/24 そううつ病はミトコンドリアの異常が原因
脳内細胞のミトコンドリアの機能障害が、そううつ病を引き起こす可能性があることをマウスで確かめたと理化学研究所などの研究チームが発表した。そううつ病のモデル動物はこれまでなく、今回できたこのモデル動物を使えば病気の治療法や新薬の開発につながると期待されている。
そううつ病は「そう」と「うつ」の精神状態が交互に繰り返される病気で、脳の細胞内でエネルギーを生み出す小器官ミトコンドリアの機能障害が原因ではないかと考えられてきた。
そこで、ミトコンドリアの機能が正常でないマウスを人為的に作出した結果、このマウスは、不眠症や「そう」と「うつ」の気分の波などのそううつ病の症状とよく似た行動異常を示した。この結果は、ミトコンドリアがそううつ病の原因である可能性を強く示唆している。
【文献】
Kasahara, K. et al.: The rat that has peculiar accumulation to the neuron of DNA mutation of mitochondria shows the expression type like mood disorders. Mol. Psychiatry adv. online April 18 2006 [doi:
10.1038/sj.mp.4001824]
2006/04/23 細胞内の自殖作用抑制で神経変性疾患が発症
生物が飢えると細胞が自分の一部を食べる自食作用(オートファジー)は、マウスの新生児で盛んに見られることが知られている。飢餓状態の細胞は、細胞内に含まれているたんぱく質をアミノ酸に分解し、栄養とすることで飢えをしのぐ作用がある。しかし、栄養状態が良くても日常的にもわずかだこの自食作用が起きており、その理由は分からなかった。
水島(東京都臨床医学総合研究所)らの研究グループは、マウスの遺伝子Atg5 (autophagy-related 5)を改変し、全身で自食作用を起こらなくした(文献1)。するとマウスは、神経と肝臓の細胞に異常なたんぱく質がたくさんたまり、生後1日で死亡した。
さらに、神経細胞だけで起こらなくすると、生後1カ月でうまく歩けなくなり、刺激に十分に反応できない運動障害がみられた。脳の神経細胞には異常なたんぱく質の塊がたまっていた。この状態は、アルツハイマー病やパーキンソン病、ハンチントン病などの神経変性疾患と似ていた。
また、田中(東京都臨床医学総合研究所)らの研究グループは、中枢神経系に関与するAtg7(autophagy-related 7)出生後28週間以内に死亡したことを確認し、水島らと同じ結論を得た(文献2)。
以上の結果から、自殖作用(オートファジー)は、栄養状態を調節するだけでなく、神経変性(アルツハイマー病やパーキンソン病、ハンチントン病など)を防ぐ働きがあると考えられた。
【文献】
1) Hara, T. et al.: Suppression of basal autophagy in neural cells causes
neurodegenerative disease in mice. Nature online 19 April 2006
[doi:10.1038/nature04724]
2) Komatsu, M. et al.: Loss of autophagy in the central nervous system causes neurodegeneration in mice. Nature online 19 April 2006
[doi:10.1038/nature04723]
2006/04/22 脳細胞が死なない理由
年齢とともに脳細胞は死んでゆく(アポトーシス)が、頭をよく使うと脳細胞が死なないのはなぜかが分かったと東京大学の研究チームが科学研究雑誌Cellに発表した。
研究グループは、細胞内で物質を運ぶ役割を担うキネシン・スーパーファミリー・タンパク質4(kinesin superfamily protein 4: KIF4)に着目し、マウスなどで調べた結果、あまり使われない神経細胞では、KIF4がpoly (ADP-ribose) polymerase-1(PARP1)という酵素と結合し、細胞死が導かれることが分かった。一方、よく使う神経細胞では、細胞内にカルシウムが多く流れ込み、PARP1酵素がリン酸化するためKIF4と結合せず細胞死を免れる。
以上のことから、神経細胞の生死の鍵はKIF4が握っているとしている。そのため、脳細胞が死ぬのを食い止めたり、神経の再生が可能になると期待されている。
【文献】
Midorikawa, R. et al.: KIF4 Motor Regulates Activity-Dependent Neuronal Survival by Suppressing PARP-1 Enzymatic Activity. Cell 125: 371-383. (2006) [doi: 10.1016/j.cell.2006.02.039]
2006/04/21 女子大生の83%がダイエット経験
アメリカの女子大生は、太り過ぎかどうかに関係なく83%がダイエットの経験をしているとアメリカ栄養学会雑誌に報告された。また、80%は運動を試みたが目標体重を達成したのはわずか19%であった。さらに、9%が喫煙をし、32%が朝食抜きの生活をしている。
【文献】
Malinauskas, B.M. et al.: Dieting practices, weight perceptions, and body composition: A comparison of normal weight, overweight, and obese college females. Nutr. J. 5: 11. (2006) [doi: 10.1186/1475-2891-5-11]
2006/04/20 緑茶・コーヒーに糖尿病予防効果
大阪大の磯教授らの研究グループは、全国約1万7000人の追跡調査から緑茶やコーヒーを多く飲む人は糖尿病になりにくいと発表した。
40~65歳の男女で、糖尿病やがん、心臓病になっていなかった1万7413人を5年間調べた結果、このうち444人が糖尿病を発症した。
緑茶の摂取量との関係では1日6杯以上飲む人は、週1杯未満の人に比べて糖尿病の発症リスクが33%減っていた。コーヒーを1日3杯以上飲む人も、週1杯未満の人に比べ42%減だった。
しかし、紅茶やウーロン茶にはこうした傾向は認められなかった。
さらに身長と体重から肥満と判定される人でも、コーヒーや緑茶などによるカフェイン摂取量が多い人は、発症リスクが大きく減っていた。
緑茶やコーヒーに糖尿病予防効果があるのは、糖尿病につながるインスリン抵抗性(インスリンが効きにくい状態)を改善する抗酸化性物質の効果と考えられている。
【文献】
Iso, H. et al.: The relationship between green tea and total caffeine intake and risk for self-reported type 2 diabetes among Japanese adults. Ann. Intern. Med. 144: 554-62. (2006)
2006/04/19 投与薬剤の効果判定に期待
がんは、遺伝子をつくる化学物質「塩基」の並び方に異常があると、細胞が急増して起こる。この異常は、同じ種類の塩基が連続して数個並んでいる場所でよく発生する。
札幌医大など日欧の研究グループは、大腸がんや胃がん、子宮がんの患者計181人から摘出したがん細胞を分析した結果、約2割の40人で同じ種類の塩基が連続して並んでいる異常を発見した。さらに、試験管内で、これらのがん細胞にトリコスタチンAなど3種類の抗がん剤を加えると、がん細胞消滅など効果が表れる場合とない場合があることが分かった。
原因を分析したところ、遺伝子の働きを抑える酵素「ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)」の構造に微妙な違いがあり、抗がん剤の効き目を左右していることが明かとなった。患者の遺伝子をあらかじめ調べてHDACの構造を分析することで、抗がん剤を投与前にその効果の有無を把握できる可能性が示唆されている。
【文献】
Ropero, S. et al,.: A truncating mutation of HDAC2 in human cancers confers resistance to histone deacetylase inhibition. Nature Genetics online 16 April 2006 [doi:10.1038/ng1773]
2006/04/15 肥満になりやすい遺伝子の発見
太りやすさに関係しているDNAの型を新たに発見したと、アメリカ・ボストン大などの研究チームが発表した。
研究チームはアメリカ人約700人の血液サンプルと体格データを使って、DNAの塩基が1カ所だけ置き換わっているSNP(single nucleotide polymorphism)と肥満との関係について約8万7000カ所解析した結果、遺伝子「INSIG2」の近くにSNPがある人は、そうでない人より1.3倍肥満になりやすいことが分かった。
この遺伝子は、コレステロールなどの合成を抑制することが知られており、動物実験では肥満との関係が明かとなっている。今回見つけられたSNPが遺伝子の働きを阻害するような影響を及ぼしていると考えられている。
また、西欧系米国人、アフリカ系米国人、子どもからなる異なった集団でもSNPと肥満との関係が確かめられた。
危険度はそれほど大きくないものの、今回の調査では約10人に1人の割合でこの型がみられ、肥満の予防や治療法の開発につながると期待される。
【文献】
Herbert, A. et al.: A Common Genetic Variant Is Associated with Adult and Childhood Obesity. Science 312: 279-283. (2006) [DOI: 10.1126/science.1124779]
2006/04/12 食物繊維は心臓病、糖尿病に有効
食物繊維が豊富な食事は、血中のC反応性タンパク質(CRP)を下げることが分かった。C反応性タンパク質(CRP)は、身体の炎症のマーカーで、このタンパク質が高いと将来、心臓病や糖尿病になる危険が高まる。
健康な524人を対象に調査した結果、食物繊維を沢山摂取している人はC反応性タンパク質(CRP)の濃度が低いことが分かった。食物繊維の摂取量が最も少ないグループに比べて最も多いグループではCRPの濃度が63%低いことが分かった。
何故、食物繊維の摂取がCRPを下げるのかはまだ分かっていないが、研究者らは、食物繊維が、コレステロールや血糖値を下げるためと推測している。
この研究は、心臓病、糖尿病予防に果物などから食物繊維を1日当たり20-35g摂取することとする指針を支持する結果である。
【文献】
Ma, Y. et al.: Association between dietary fiber and serum C-reactive protein. Am. J. Clin. Nutr. 83: 760-766. (2006)
2006/04/10 マグネシウムでメタボリックシンドロームのリスク低下
糖尿病や冠動脈疾患につながるメタボリックシンドロームの罹患率低下に、マグネシウムの豊富な食品が役立つことがアメリカ・ノースウェスタン大学などの研究グループが明らかにした。
アメリカ人約4,600人を対象として1985年に開始された研究で、マグネシウム摂取量の多い人は、その後の15年間のメタボリックシンドローム発症リスクが31%低いことが分かった。
メタボリックシンドロームの症状には、高血圧、高血糖、高脂血症のほか、「善玉」であるHDLコレステロールの低下などが含まれる。このうち3つ以上が認められると、心血管疾患および糖尿病のリスクが増大する。
【文献】
He, K., et al.: Magnesium Intake and Incidence of Metabolic Syndrome Among Young Adults. Circulation 113: 1675-1682 (2006) [doi:
10.1161/CIRCULATIONAHA.105.588327]
2006/04/09 韓国人の食物繊維の摂取量
韓国人は、アメリカ人や日本人に比べて食物繊維をたくさん摂取していることが韓国保健福祉部の調査で分かったと韓国中央日報が伝えている(06/04/03)。、韓国人1人1日当たり平均19.8gの食物繊維を摂取しているが、この量は、アメリカ人(15.1g)や日本人(15.4g)に比べて30%ほど多い。
理由として、食物繊維が多いコメを主食としているうえ、キムチやトウガラシ、海草類などをよく食べるためとしている。しかし、韓国栄養学会の推奨量には届いていない。
2006/04/08 日本、長寿国世界一(WHO世界保健報告から)
世界保健機関(WHO)は、2006年版の「世界保健報告」を発表した。それによると2004年の平均寿命が世界で一番長いのは日本、モナコ、サンマリノの82歳で、日本は「長寿世界一」である。男女別では日本女性が86歳で最長寿、男性は日本、アイスランド、サンマリノが79歳である。
世界192カ国中、日本など16カ国で平均寿命が80歳以上であるのに対し、アフリカの26カ国にアフガニスタンを加えた27カ国は50歳未満だった。最も平均寿命が短いのはジンバブエの36歳である。
WHOの寿命に関する報告は下記のサイトで読める。
http://www.who.int/whr/2006/annex/06_annex1_en.pdf
最も平均寿命が短かったジンバブエは、南アフリカの北に位置する国である。コレラ、サルモネラ、マラリア、赤痢など感染症の蔓延や治安の悪さなどが死亡原因である。
外務省のジンバブエに対する海外安全情報は下記のサイトで読める。
http://www.anzen.mofa.go.jp/info/info4.asp?id=106
2006/04/07 健康・安全を重視/農林公庫調査から
女性の食へのこだわりは「健康・安全」が最も高く、美食や価格を上回ることが、農林漁業金融公庫の調査で分かった。食を通じた健康への取り組みでは、7割の人が「野菜や果物を多く摂取」と答えたが、「サプリメントによる栄養補助」を挙げる人も多く、健康食品への関心の高さを裏付けた。
調査は今年2月、20歳以上の女性、2094人を対象にインターネットで行った。それによると、食に対する最も強い関心は、30%の人が「健康・安全」と答え、1位だった。次いで「美食」が19%、「安さ(経済性)」が12%と、グルメ志向や経済性より健康・安全の方に関心が高かった。
「国産」へのこだわりは10%とそれほど高くはなかったが、それでも「簡便化」や「高級志向」を上回った。「健康・安全」志向の人は年齢層が高いほど多く、50代後半の女性では43%に上る。逆に、「美食」や「安さ(経済性)」を志向する人は若年層に多かった。「美食」に最もこだわる人は20代後半で32%に上り、「安さ(経済性)」は、30代後半で22%を占めた。
農林漁業金融公庫の「
健康に役立つ食品に関する調査」は下記のサイトにある。
http://www.afc.go.jp/your-field/investigate/
pdf/shohi-h17-02.pdf
2006/04/04 ビタミンCの老化抑制効果
東京都老人総合研究所と東京医科歯科大大学院の研究グループは、ビタミンCが不足すると老化が進むことをマウスの実験から解明した。
研究グループは、老化が進むと減る特定のたんぱく質(SMP30)を特定し、その性質を解析した結果、ビタミンCを合成する酵素(gluconolactonases)と同一であることが分かった。そこで、遺伝子操作でこのたんぱく質を持たないマウスを作り、正常なマウスと同時に飼育したところ、6カ月たつと、正常なマウスはすべて生きていたが、このたんぱく質を持たないマウスは半数が老衰で死んだ。死因は老衰で、4倍の速さで老化が進行したことになる。
さらに、ビタミンCを全く含まないえさでこのマウスを飼育すると、人がビタミンCの欠乏でかかる壊血病の症状が現れて、約半年後にはすべてが死んだ。
今回の実験から直ちに人でもビタミンCを摂取すれば老化が予防できるとはならないが、その可能性を示す有力な証拠である。
【文献】
Kondo, Y., et al.: Senescence marker protein 30 functions as gluconolactonase in L-ascorbic acid biosynthesis, and its knockout mice are prone to scurvy. Proc. Natl. Acad. Sci. 103: 5723-5728. (2006) [doi
10.1073/pnas.0511225103]
2006/04/03 内臓脂肪が神経通して食欲調節
東北大学の研究グループは、内臓脂肪に神経を通して食欲を制御する働きがあることを動物実験で解明し、科学雑誌Cell Metabolismに発表した。
研究グループは、食欲抑制の刺激が脂肪組織から神経を通して脳に伝わると考え、マウスの脂肪組織から脳に向かう神経を切断したところ、予想通りマウスの食欲は低下しなかった。
内臓脂肪は、メタボリックシンドローム(高血圧、糖尿病、高脂血症をひきおこし、動脈硬化を進行させる病気)と関係することから、研究グループは、この神経伝達機構の解明により新しい治療法が開発されるとしている。
【文献】
Yamada, T., et al.: Signals from intra-abdominal fat modulate insulin and leptin sensitivity through different mechanisms: Neuronal involvement in food-intake regulation. Cell Metabolism 3: 223-229. (2006)